要旨


モンゴル国ステップおよびゴビステップにおける 炭酸塩炭素14C値の垂直分布特性の比較
○浅野眞希1)、田村憲司1)、前島勇治2)、白戸康人2)、松崎浩之3)、東 照雄1) 1)筑波大生命環境、2)(独)農環研、3)東大原総センター
【はじめに】  半乾燥地域に生成する土壌には、土壌生成作用によって二次的に炭酸塩が集積した炭酸塩集積層(calcic horizon)が存在する。近年、加速器質量分析法(Accelerator Mass Spectrometry ; AMS)の進歩により、炭酸塩に含まれる放射性炭素(14C)を直接測定することが可能となったため、土壌生成作用による炭酸塩炭素の挙動を明らかにすることが可能となり、土壌中の炭酸塩のダイナミクス、無機炭素フラックス等の研究に応用されるようになった(Amundson et al., 1994 ; Wang et al.,1994)。土壌生成作用によって二次的に集積した炭酸塩の生成時間を求めるには、炭酸塩そのものの14C年代を求めることが不可欠である。しかし、AMS法を用いた炭酸塩集積層の生成時間に関しては、南部・北部アメリカ等の限られた地域の研究例がほとんどである。また、このように基礎データの蓄積が少ない一方で、陸上生態系の炭素循環という観点から、乾燥地における炭酸塩の集積過程の解明は、重要性を増しているのが現状である。 そこで、本研究は半乾燥地域であるモンゴル国の森林ステップおよび、ゴビステップに存在する土壌を対象として、炭酸塩集積層の炭酸塩および炭酸塩炭素の14C値の垂直分布特性の比較を行い、気候要因が炭酸塩の集積過程に及ぼす影響を検討した。
【試料および方法】  モンゴル国北東部のステップに位置するKherlenBayan-Ulaan (KBU)および南部のゴビステップに位置するBulgun(BG)において、土壌調査ハンドブック(日本ペドロジー学会編、1997)に準じて土壌断面調査を行い、層位別に物理性測定用、化学性・同位体分析用の土壌試料を採取した。また、10cm深度毎に炭酸塩測定用試料を採取した。 14C-AMS測定用試料は、各地点の炭酸塩集積層より採取した土壌試料を風乾後、2mm以下に篩別し、さらにメノウ乳鉢を用いて粉砕し、0.2mmのふるいに全通した。東京大学原子力研究総合センタータンデム加速器研究部門の炭素精製用真空ラインを使用し、85%リン酸処理によりCO2を発生させ、精製後、鉄触媒による水素還元法によってグラファイト化を行い、14C-AMS測定に供試した。炭酸塩含量は、土壌養分分析法(土壌養分測定法委員会編, 1970)に従い、湿式燃焼法(小坂・本田・井磧法)により得られた炭素量を、炭酸カルシウム(CaCO3)含量(kg m-2)に換算して求めた。仮比重は、層位別に採取した不かく乱試料(100mL)を用いて測定した。
【結果】  ステップとゴビステップに下に生成する土壌では、炭酸塩の垂直分布に明確な差異があった。ステップに位置するKBUでは、Bk層が38cmから観察され、炭酸塩含量は集積層の中間で最も高くなり、Ck1層で0.6 kg m-2であった。一方ゴビステップ下のBGでは、表層0cmから炭酸塩が存在し、炭酸塩含量はA層で0.2 kg m-2、Bk2層で最も高く、0.9 kg m-2であった。両地点から得られた炭酸塩炭素の14C値は、KBUのCk1層で-656.3‰(MTC-03571)、Ck2で-729.4‰(MTC-03572)であり、BGでは、A層で-392.2‰(MTC-05521)、Bk3で-776.0‰(MTC-05524)となり、両地点とも下層部ほど低くなる傾向を示した。以上の結果から、両地点における炭酸塩集積層の炭酸塩含量および炭酸塩炭素の14C値の垂直分布特性の比較を行ったところ、気候要因の差異が炭酸塩の集積過程に大きく影響を及ぼしていることが示唆された。 なお、本研究は独立行政法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)における研究課題「北東アジア植生変遷域の水循環と生物・大気圏の相互作用の解明」及び環境省地球環境研究総合推進費、「G2北東アジアにおける砂漠化アセスメント」及び「早期警戒体制(EWS)構築のためのパイロットスタディ(H16〜18)」により行われたものである。