発表要旨


モンゴルや中国北東部を中心とするアジア北東部においては,遊牧民による地下水の利用が従来から一般的に行われてきたが,近年この利用量が急激に増加しているため,地下水資源が枯渇するのではないかという懸念が顕著となり,適正な水利用の管理体制を整備することが緊急の課題となっている.
このような実際的問題を解決するためには,現地における地下水資源の現状を自然科学的手法に基づき,定量的に把握することが必要不可欠であるが,従来そのような研究は当地域のみならず,アジア北東部の乾燥・半乾燥地域では,ほとんど実施されていない.モンゴルの草原地域における地下水の起源は,経験的に凍土であろうと言われているが,これさえも全くの憶測に過ぎず,このような基礎的かつ科学的情報の欠如が,水資源の適正管理を行うための大きな障害になっている.
こうした観点から本研究では,地下水の科学的な実態把握を目的とし,現地において調査を開始している.2002年6月末および8 月上旬に実施した現地調査において,対象地域における既存井戸の調査を行い,合計約50地点において地下水位などの測定と水試料のサンプリングを実施した.またモンゴル国内の地下水の現状に関するデータがもっとも良く蓄積されているモンゴル科学アカデミー・地質生態研究所を訪問し,対象地域における既存ボーリング資料などを閲覧した.その結果,以下の諸点が明らかとなった.
対象地域における放牧民のための既存井戸の地下水位は,概ね地表面下1 〜 5 m 程度である.また地下水の電気伝導度は,200 〜600 μS/cm であり,一般的な乾燥地域のそれに比較すると,低い値を示した.また地下水温は概ね5 ℃と,きわめて低い値を示した.ヘルレン川本流の河川流量データをみると,上流から下流に向け流量が減少している,すなわち失水河川であることから,本流域の浅層地下水の涵養源は主として河川であると考えられる.さらに降水,河川水,地下水,湖沼の水素・酸素安定同位体比および無機溶存イオン濃度は,当地域の地表面付近の陸水が基本的に天水起源であることを示しており,流量データが示す結果を支持している.